暗殺教室 第16巻の感想です以下、第16巻の感想になりますので未読の方は
ネタバレにお気を付けください。
暗殺教室 16(ジャンプコミックス)2015/10/3
松井 優征
暗殺教室、第16巻。
前巻の怒涛の展開から続いて、今回は
ほぼ一冊まるごと殺せんせーの過去編となっております。
殺せんせーとは何者だったのか、何故E組の担任になったのか、全ての謎が明かされます。
まさか暗殺教室でこんなにも切なく、感動的なストーリーを見せられるとは思ってもみませんでした...。ここまで読んできて良かった、と素直に思えた一冊でした。では本編の感想を。
今回の感想は無駄に長いです時は2年前へと遡る。
どこかの研究所に捕らえられている死神時代の殺せんせー。ついに解禁された人間の頃の素顔は...
イケメンだった...。まさか殺せんせーがこんな美青年だったとは...。これまでタコとしての姿しか見てなかったから、改めて素顔が明かされるとだいぶ印象が変わるなぁ。そりゃあこんな害のなさそうな顔で優しい笑みを向けられたら誰だって騙されますよ。まさに
「怖くないのが怖い」を体現したかのような人物です。
しかし、こんな美青年が後々エロ本の山の上で女子中学生と一緒にはしゃぐようになるなんて...本当に
何があったんだよ!?という話ですよね...。
かつて姿や性格を変えたキャラは山ほどといましたが、ここまで外面的にも内面的にも劇的な変化を遂げた人物はいないのではないでしょうか。
では具体的に何があったのかについて触れていくと、
まず殺せんせーが捕らえられた原因は唯一の弟子(12巻でE組を襲ってきた2代目死神)の裏切りでした。
ああ、13巻で2代目がある殺し屋のスキルに憧れたと言っていたけれど、それが殺せんせーの事だったのね。殺せんせーが2代目死神と対面したときに微妙な表情をしていたのも裏切られた唯一の弟子の顔を見て少なからず衝撃を受けたからだったのか。

2代目の裏切りによって捕まった初代死神は非公式の研究施設で行われている天才科学者シロこと
柳沢の研究の実験台にされることに。
そして、その実験の危険性の高さから死神を近い距離で観察する役割が必要になるということで呼ばれた人物が...
雪村あぐり先生。
E組の前任の教師であり、茅野ちゃんのお姉さんでもある人物。これまでは主に殺せんせーの回想での登場でしたが、ついに本編にも登場しました。(と言ってもこれも回想のようなものですがw)彼女との出会いによって死神がどう変わっていくのか...というのが今巻の肝になってきそうですね。

柳沢の研究は素人が聞いても到底理解できない超理論のようですが、死神は既に持ち前の知識量で柳沢以上に研究の要点を理解しており、逆に実験を巧みにコントロールして人知を超えた破壊の力を手に入れる算段を立てている様子。
こういうシーンを見ると改めて初代死神の能力の高さを思い知らされますねw

雪村先生に会うたびに、彼女の職業やE組の事情を知って行き、次第に少しずつ彼女の「存在そのもの」に興味を惹かれていく死神。
3ヶ月も経つ頃には2人は旧知のように打ち解けていました。
完璧に管理していたはずの唯一の弟子に裏切られた理由が分からないと言う死神に対し
「その生徒はあなたに見て欲しかっただけなんですよ」と返す雪村先生。この
「見る」という言葉が今の殺せんせーの教師としての基礎になっているような気がしますね。
また死神と雪村先生の距離が着実に縮まっていく一方で、
柳沢の実験が進むうち、死神の体には明確な変化が起こり始めていました。6ヶ月目には外部刺激で腕や指先がムチのようにしなり始め、柳沢はそれを
「触手」と呼ぶようになります。
端から見れば異形でしかない触手。
いつそれが持つ強大なパワーが暴れ出してもおかしくはない。普通だったら恐怖と畏怖の眼差しを向けるでしょう。
しかし、雪村先生はもしもの時自分が真っ先に犠牲になることも、死神がどんどん人ならぬ存在に変わっていることも理解しながらも、余計な事は何も聞かず、ただ真っ直ぐに死神にいつも通りの明るい笑顔を向けます。
この時、死神は初めて
「見られる」事が嬉しい事なのだと知るようになります。これまで誰からもちゃんと見られた事がない死神にとって、見かけや経歴など関係なく、
しっかりその人の内面を「見て」対等な立場で接してくれた事が嬉しかったんでしょうね。
そして、一年が経つ頃には2人は何でも話せる関係になっていました。
なんと死神が自分の生い立ちを話すようになるほどです。殺し屋...ましてや死神と謳われるほどの人物が自分の素性を明かすなんて、相当心を許した相手でなければできないことですよね。そんなもう恋人と言っても差し支えないような関係になっている2人ですが...
「誕生日が分からないなら...
今日をあなたが生まれた日にしませんか?」14巻にも出てきたシーンですね。ここにきて雪村先生が仕掛けてきました。自分の誕生日が分からないなら今日を誕生日にしちゃえばいいじゃないという事で、これまでの感謝の意も込めて死神に「ある物」をプレゼントします。

雪村先生からの贈り物に対し、嘘偽りの笑顔ではなく、心からの本心の笑顔を浮かべる死神。
雪村先生の誰とでも対等に接する誠実な態度が死神の偽りの笑顔を本物の笑顔に変えたという事ですよね。ああ、なんて素敵な関係なんだ...。
しかし、この実験室は2人の一切の接触を許さない場所。雪村先生が直接自分の手でプレゼントを渡す事は叶わない...。
また、雪村先生は柳沢から教師の立場を捨て、この研究所で専属で働くよう迫られていたようで。
E組を教えられるのは今年が最後になるだろうから、なんとしても彼らの助けになりたいと。そして、その最後の1年を頑張るために、これまで自分を支えてくれた死神に触れたいと。絞り出すように死神に本心を吐露する雪村先生。
その言葉を聞いた死神は...
極細の触手を操ってはじめて雪村先生に触れます。どうやら死神は研究者達が考えているよりはるかに早く触手を自在に操れるようになっていたようで...。まさか触手が2人を結びつける重要な存在だったなんてね...ここはガラス越しというロマンチックなシチュエーションも相まって非常に美しいシーンに仕上がっていました。
もうこれでハッピーエンドでいいよと言いたいところなんですが、結末が分かっている以上はそうはいきません。
柳沢の実験も最終段階を迎えており、
生物の老化による不具合の問題の検証のために、死神の反物質細胞が移植されたマウスを使って月面で実験を行いました。すると...

莫大なエネルギーを生み出す反物質細胞から飛び出した反物質生成サイクルが月の物質を連鎖的に反物質へと変えてゆき、
なんと
月の直径の7割を消し飛ばしてしまいました。月を破壊したという事実は柳沢の実験の弊害によるものだったのですね。殺せんせーはとんだ無実でした。なんかもう全てにおいて柳沢が原因になっているような気がするw
まあそれはいいとして、どうやら計算通りに行けば、今回の実験の結果と同じ事が
来年の3月13日に死神の身体にも起こるらしいです。
地球の滅亡を防ぐためには分裂限界の前に心臓を止めるしかない...つまりは
死神を殺すしかないという事ですね。
その事実を物陰で聞いていた雪村先生は実験体としてではなく、信頼関係を築いてきた人間としてそれを死神に伝えます。
望みを捨てずに一緒に助かる方法を探しましょうと言う雪村先生。しかし、既に死神の耳には雪村先生の言葉は届いていませんでした。自分の「死」が見えた瞬間に死神は暴走を起こし、大切な存在であるはずの雪村先生にも見下した冷酷な言葉を吐いてしまいます。
元々備わっていた殺し屋時代のスキルと莫大な触手の力を使って破壊の限りを尽くす死神。自分の死までが見えた時、死神は全てが見えた気になっていました。
そんな死神が暴走を続ける中、雪村先生は、
このまま行けば死神はもう二度人間には戻れないと感じ、暴走を止めるために彼の体に抱きつきました。その瞬間。

柳沢の仕掛けた触手地雷が雪村先生の体を貫いてしまいます。
全て見えたつもりでいた。けれど、本当は何も見えていなかった。瀕死の雪村先生を前にして、ようやく死神は我に返ります。雪村先生の必死の想いが彼を繋ぎ止めたのですね。
自分のせいで雪村先生が重症を負ったと考え、後悔の念に駆られる死神。ここで初めて身につけた力の使い道がもっと他に沢山あった事に気付きます。
「本当に大切なものは失ってからはじめて気付くもの」と言いますが、まさにその通りですよね。このシーンの死神の悲痛な表情を見て、やはりこの人もちゃんと1人の人間だったんだなと感じました。

もう助からない雪村先生。最後の力を振り絞って死神にE組の生徒達を託します。
「なんて...素敵な触手...!!
...この手なら ...きっとあなたは...
素敵な 教師に...」1話と繋がった。これまで「何で素敵な触手?」と思っていたのですが、そうか、
自分を支えてくれた大切な存在が、はじめて自分に触れてくれた手が触手だったから「素敵な触手」なのですね。しかし、こうやって2人の過去を読んだ後に、改めて1話のこのシーンを見るとかなり見方や感じ方が変わりますね。こんなにも切なく、優しさに満ちた愛のエピソードを終盤に持ってくるなんて...本当にずるいですよ、松井先生。
そして死神は雪村先生からの誕生日プレゼントである巨大ネクタイを着けて、
「どんな時でもこの触手を離さない」と彼女に誓うのでした。

人間の細胞が全て触手に置き換わり、全く新しい生物に生まれ変わろうとしている中、死神が触手に望んだのは
「弱くなりたい」という事。
時に間違うこともあるかもしれない。時に冷酷な素顔が出るかもしれない。でも、雪村先生がやろうとしていた事を、自分なりに、自分の最も得意な殺り方で精一杯やろうと。
それからマッハ20の新米教師は...ゆっくりと ゆっくりと立ち上がった。
そして、現在に至る。
これで殺せんせーの過去編は終了。
いやー本当にここまで濃密な内容を1巻に収める松井先生の技量には感服です。
『ネウロ』の春川教授と刹那さんのエピソードを読んだ時にも思った事なんですが、本当にこの方は悲劇的な恋というか、胸が締め付けられるような切なさの残る純愛を描くのが上手いな、と。じゃあ切ないだけなのかと言うと、決してそういうわけでもなくて。切なさの根底にはしっかりと「優しさ」があるんですよね。だからこそ読み終えた時にどこか温かみも感じられるのだと思う。
そしてなにより
「好き」や「愛してる」などの直接的な言葉を使わずに2人の距離感、関係性を魅せられているのが素晴らしい。もう今更そんな無粋な表現は必要ないという事ですよね。直接的な言葉を使わずとも、読めば2人がお互いにどう想っているのかを汲み取ることができるような作りになっている。この技法はネウロの頃から一貫していて、キャラの関係性を印象付けるのに一役買っている部分だと思うので、願わくばぜひこれからも続けていってもらいたいですね。
さて、話を本編に戻します。
殺せんせーが自身の過去を話し終わった時、E組メンバーの脳裏にはこれまで殺せんせーと過ごしてきた様々な思い出が蘇っていました。
怖かった事、腹が立った事、嬉しかった事、楽しかった事。
ここでE組は初めて自分たちに恐ろしい難題を突きつけられた事に気付いたのでした。

それは
この先生を殺さなければならないのだという事。心のどこかで分かっていたようで、ずっと目を背けていた現実。
恐らく殺せんせーの過去を知り、自分たちの置かれている立場を理解することによって、改めてこれからこの作品全体のテーマである
「殺す」という事と向き合っていくことになるんだろう。そしてそれに対するE組の「答え」がこの作品として最も伝えたい事になるんじゃないかな。
松井先生の
「ここからが暗殺教室です」という言葉もつまりはこれから作品全体のテーマと向き合っていくんだよという事を指したものだったんだろうね。
殺せんせーの暗殺期限まであと66日。約2ヶ月ちょっとというところですかね。
誰も暗殺を仕掛けようとしない中、渚くんはクラスの皆に殺せんせーの命を助ける方法を探したいと提案。
その提案に多くの生徒が賛同する中、中村さんが殺せんせーと築いてきた絆が本当に大切なものであると感じているからこそ殺すべきだと反論。
これまで渚くんと比較的仲の良い人物として描かれてきた中村さんが真っ先に反対派に渡ったのは少々意外でした。まあそれだけ真剣に考えているという事なのでしょうね。
反対派は中村さんの他にいつもの寺坂グループ...あとはカルマ君もですかね。ずっと何か言いたそうな雰囲気を出していたので、恐らく彼も反対派でしょう。
しかし、ここにきて内部分裂か...いや、むしろこのタイミングだからこそか。
取り敢えずしばらくは殺す殺さないでクラス内が大きく揉める展開になりそうですね。彼らがもがき苦しみ、悩み抜いた末にどのような答えを出すのか、今から楽しみです。
おまけ

今巻の唯一の癒しだった茅野ちゃん。
あのキスの一件以降、渚くんを意識しまくりで悶えているのが最高に可愛いですね。

個別能力値は女子一色。
やっぱ速水さんスペック高いよなぁ。単純な暗殺力で言えば女子ナンバーワンなんじゃないだろうか。

雪村先生好きの人は必見のプロフィール。
さり気なくスリーサイズを載せているあたりに松井先生の抜け目なさを感じるw
それでは。